映画に憧れた「原点」


映画を観て“衝撃”を受けたのは、11歳のときだった。短い人生の中で初めての経験だった。


その映画の名は「スタンド・バイ・ミー」。


自分と同世代の少年4人が、冒険に出る。森の中で焚火を囲んでソーセージを焼いて食べ、くだらない話をして笑いあい、獣に襲われないように交代で見張りに立ち、自分達だけの“初めての夜”を越える。


あの夜を越えた経験が彼らを大人にしたんだ――とわかったのは、僕自身が大人になってからだ。当時はそんなことをわかるわけもなく、ただひたすらに、自分にはできない冒険をしている同世代の少年たちを憧れの目で見ていた。


何度も、何度も、この映画を観た。


そして僕は、初めて「スタンド・バイ・ミー」の本、つまり「映画の原作の本」を読んだ。映画に描かれていない世界が、そこにはたくさん溢れていた。映画のほうがいい、本のほうがいい、という話ではない。映画には原作の本があるんだ、と知った。


いつしか自分も「映画をつくりたい」と思うようになった。その夢は今も心の中に、小さな炎ながら消えることなく、静かに揺らぎ続けている。


このような体験を通して、僕は「映画のような1冊を、つくりたい」と思うようになった。


「映画のような1冊」とは?



――「映画のような1冊」とは、なんだろうか?


僕が思うその1つは「映像が見える本」のことだ。


文章を読んでいるだけで、それぞれ読者の頭の中に自分だけの光景、シーンが鮮やかに広がり、自由に、無限に旅をさせてくれるもの。読み終えたときに、本を読んでいたのか、映画を観ていたのか、わからないような感覚になれるもの。本にはその力が、ある。それが読書の最大の楽しみであると思う。


そして、もう1つは、人生の光と影、濃淡がしっかりと描かれている本のことだ。


人生は楽しいこと、うれしいこと、幸せなことばかりではなく、残念ながら誰にでも、悲しいこと、辛いこと、不幸なことは起こるもの。「スタンド・バイ・ミー」にはその全てが盛り込まれていて、だからこそ僕は惹き込まれた。影の部分も包み隠さずに描かれた本こそが、本を読んだ者を“読者”にするのだと思う。


僕は「映画のような1冊を、つくりたい」。そしていつか、ここから、本当に「映画になる1冊」が生まれたら、こんなにも幸せなことはない。


著者の方と、読者の方々と、自由に、無限に旅をしたい。


代官山ブックス

代表取締役 廣田喜昭